後遺障害固定後に死亡した被害者の逸失利益の算定に当たり,死亡の事実を考慮しないとした事例(H8.5.31最判)

2021-08-31

交通事故の被害者が事故に起因する後遺障害のために労働能力の一部を喪失した場合における財産上の損害の額を算定するに当たっては,その後に被害者が死亡したとしても,交通事故の時点でその死亡の原因となる具体的事由が存在し,近い将来における死亡が客観的に予測されていたなどの特段の事情がない限り死亡の事実は就労可能期間の算定上考慮すべきではないと解するのが相当である。このように解すべきことは,被害者の死亡が病気,事故,自殺,天災等のいかなる負担すべき第三者が存在するかどうか,交通事故と死亡との間に相当因果関係ないし条件関係が存在するかどうかといった事情によって異なるものではない。
 また,交通事故の被害者が事故に起因する後遺障害のために労働能力の一部を喪失した後に死亡した場合,労働能力の一部喪失による財産上の損害の額の算定に当たっては,交通事故と被害者の死亡との間に相当因果関係があって死亡による損害の賠償をも請求できる場合に限り,死亡後の生活費を控除することができると解するのが相当である。けだし,交通事故と死亡との間に相当因果関係が認められない場合には,被害者が死亡により生活費の支出を必要としなくなったことは損害の原因と同一原因により生じたものということができず,両者は損益相殺の法理またはその類推適用により控除すべき損失と利得の関係にないからである。